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休憩まだもらってないです

アパレル販売員の過去を持つ私の、毒にも薬にもならない思い出を綴るブログです

想像を遥かに超える

私たちの会社では、ランダムに(個々の雰囲気に合わせて)振り分けられたブランドにて、バックヤードでの商品管理のアルバイトと称した入社前研修があった。

 

販売員の仕事とひとくちに言っても、接客や品出しという想像しか出来なかった私に取って、バックヤードという小さな空間での此れでもかという仕事量に結構驚いた。

 

私たちはバックヤードの事を”ストック””ストックルーム””裏”など様々な呼び方をした。主に”ストック”という呼び方をする事がほとんどだった。ストックの中には、個人の荷物、業務用パソコン、商品、陳列備品、消耗品、文房具などが収納されており、共有で使う大きなロッカールームと倉庫といったようなイメージである。

 

お客さんとしてしかお店の事を知らなかった私は、初日に、ストックはここだよ、と案内された。正直、「狭っ」と思った。本当に、人がすれ違えない位の狭さ。そこに、店舗にとって大切なものが全部入っている。コート、ジャケット、シャツ、ブラウス、パンツ、スカート、カットソー、ニット、小物。ハンガーにかかったものと、品番毎に袋詰めされたもの。圧倒され、息が止まりそうになる。こんなに沢山の商品の中から、お客様に「これの色違いありますか」「このサイズはありますか」と言われたものを、即座に選び抜き、お客様の元に持って行く。…すげえ。

 

毎日入荷があり、一箱一箱カッターで開封し、伝票と商品の内容が合っているかどうかを確認する。終われば、伝票をファイリングし、店頭に出す準備をする。防犯用のちょっとやそっとでは取り外せないタグを一点ずつ付け、素材や型によってハンガーにかけたり、畳んで用意する。ボトムスはサイズ展開があるため、売れる型は全サイズ用意したり。準備した商品は、店長がディスプレイに使うまではあの狭いストックに置いておく。店頭出しする商品以外は、”在庫分”として例によって品番毎に収納する。その作業が終われば、段ボールを廃棄する。

 

この一連の流れも、文字にしてしまえば簡単そうな事であるが、入荷量は日によって違い、とんでも無い量が入ってくる事もある。また冬場のニットやコートは嵩張る為、収納出来ない事がある。そんな時には工夫をこらして、ストックの整理をするか、売れ行きの悪い品番の商品を段ボール詰めにし、別の離れた倉庫へ持って行く。そしてスペースを確保する。

 

接客をする為には商品が必要。商品を並べるためには品出しの作業が必要。品出しの作業に入る前に、入荷商品の検品作業は必要不可欠。…全ての「こと」が繋がっている事はもちろん理解出来るが、すごすぎる。接客とストック業務を上手く両立させているこの人達は本当にすごすぎる。と思うばかりだった。

ここで働かせてください

私がのちに数年もの間お世話になる会社との戦い。

 

私は失恋(不採用の件)の感情を100gくらい胸に仕舞い、説明会に向かい、エントリーシートを書いた。私の就活はかなり切羽詰まっていた。最終面接まで行ったのは、某子供服ブランドだった。はっきり言って全く私の趣味では無かったし、少なくとも働きたいと思える会社では無かった。しかし、面接官は明らかに私の事を気に入っていた。自分の事を好きか嫌いか、相手の表情や口調でここまで分かるのかと驚いた。そしてそれが分かると、私は普段友達や家族と話すときと同じように饒舌になれた。最終面接で、御社が第一志望では無いといった就活ではありえないバカな回答をし、あっさり落とされた。

 

最後に受けた、”のちに数年もの間お世話になる会社”の面接は、トントン拍子だった。就活も終盤ともなると、”慣れ”が良いように影響した。自分の事は自分の言葉で全部話せた。笑顔と笑声は誰にも負けなかった。

 

一次面接、二次面接、三次面接、最後まで社長は出てこなかったが、明らかにどんどん偉い人が出てきている事くらいは、分かった。面接の場で、最後に質問が無いかと聞かれるのも鉄板だと思うが、はっきり言って、このタイミングこんなに偉い人達に何の質問をしろというのだ。説明会ならまだしも、最終面接で質問なんてない。ここでとんでも無い質問をして不採用には成りたくない。もう「持ち駒」はこの会社だけだった。

 

狭い個室の冷たい椅子に背中を付けずに固まっていると、一緒に受けていた学生が、俊敏に手を挙げ、質問では無く熱意を短く語った。相手の質問には上手く答えられていなかった彼に越された。私はそれを見て負けじと挙手し、同じように熱意を短く語った。面接官の一人は最後まで渋い表情だった。もう一人はにこやかに私たちを見つめていた。

販売員になるという決意

内定先は、衣料品の企画製造販売の会社。いわゆる、アパレル企業。そして私は、その会社で、販売員として会社に貢献する事を約束した人材であった。

 

そんな中、一つ問題があった。私は実はこの会社が展開しているブランドの洋服を一着も持っていなかった。もちろんブランドは知っていたし、働きたい希望のブランドもあったのだが、バイトで月5万程しか稼いでおらず、飲み会にサークルに忙しかった私には、とてもじゃないが買える値段の洋服では無かった。

 

小学生の頃からファッション雑誌を愛読していた。メイクは中学生からしているし、流行っているものはすぐに欲しくなった。母から、『アンタはなんでも手に入れなきゃ気が済まない』と呆れられる事もあったし、実際に過去の自分の写真を見ると、その当時の服装やメイクを見て、なんだこれ、と疑問を持つ事も多いのも事実だった。しかし、自分が新しいファッションやメイクをする事で、他の誰かになったような気持ちは、何にも変えられない感覚だった。

 

大学生になり、大好きなブランドが出来た。自分がそれまで好んで来たZipper系の服装では無く、モードで、新しさがあって、遊び心があって、なのに大人っぽくて、アースカラーだけど野暮ったくなくて、かっこよさもあって…とにかく、どこをとっても自分には魅力しか無く、毎日、一日のうちに何度も何度もショップのブログを読んでいた。服を着こなす販売員さんが可愛くて、おしゃれで、かっこよくて、何度も読んだ。

好きな販売員さんのいるショップに買い物に行き、心の中で、「あの人がいる!」と小躍りしながら、人見知りだから「いつもブログ見てます」とか言えない、そんな私がいた。

 

私はそのブランドの欲しいアイテムをネットでチェックし、合計金額を計算し、さらにテナントのポイントアップ期間などの、自分にも得がある日に買い物に行っていた。少しのバイト代を握りしめ、ショップに足を運んでは、徐々に全身そのブランドでかためていた。

 

ここで働けたらどんなに自分らしく、やりがいを持って働けるだろう、という思いはもちろん強くなり、新卒採用説明会に足を運び、エントリーシートを提出し、面接まで漕ぎ着けたものの、一次面接で不合格。言いたくないが、何となくの理由は分かる。私には、そのブランドのファンであるという事以外に、アピール出来るポイントが無かった。希望した会社で働き、顧客に向けたサービスに全力を注ぎ、お金を得るという事に対する責任や覚悟は、ほぼ無かったように思う。それでも、私は好きな事を仕事にしたかった。何が何でも働きたい会社から、「要らない」と言われた現実があってからようやく、就活生としてのやる気と本気を出し始めたのだった。

就職活動の収束

忘れもしない、数年前の7月7日。

ずっと待っていた番号から電話が鳴った。

「採用させて頂く運びとなりました」

このコトバを自分に向けられる日がついに来た。

 

大学三回生の秋からなんとなく始めた就活がようやく終わった。

志望動機に自己アピール、強みと弱み、長所と短所、経験、能力…

自分には何のセールスポイントが無い事が浮き彫りにされた10ヶ月。

学生のiPhoneの所有率が格段に上がった10ヶ月。

なりたいものにはなれないし、そもそもしたい事もない、

そんな自分の事を採用してくれる会社を断る理由なんて無い。

 

「是非、宜しくお願い致します。」

 

人事担当者が今後のスケジュールを伝えてくれた。

私は座り込み、震えながらメモを取った。